腫瘍科
腫瘍科
近年、動物の平均寿命が伸びてきており、犬・猫の悪性腫瘍を診断するケースが増えてきております。
犬の亡くなる原因のトップが【ガン】であるという報告もされています。
腫瘍の場合、発生した部位によって症状が異なります。体表に出来た場合、出血を起こしたりすることがあります。お腹の中に出来た場合は、嘔吐や下痢が一般的です。腫瘍は品種・性別に関係なく全ての動物で発生します。
腫瘍の診断・治療においては早期発見・治療が重要となりますので、少しでも気になることが有りましたら早めの受診をお願いします。
化学療法(飲み薬、注射など)、外科手術が代表的な治療法となります。
高度医療(放射線療法など)が必要な場合は二次診療施設をご案内します。
まず初めに飼い主様に詳しい症状のヒアリングを行います。
腫瘍の治療を行うにあたり、飼い主様からの情報が非常に大切となりますので、少しでも気になる点がある場合には詳しく教えてください。
全身の一般身体検査を行い、しこりの状態(形、大きさ、色調、数、固着の有無など)を評価します。
大まかな状態が把握できたら、飼い主様に治療や検査の提案を行います。
まずは針を刺して細胞が取れるかどうか、細胞が取れた場合どのような系統の腫瘍が疑わしいか評価していきます。悪性黒色腫や肥満細胞腫などは細胞が特徴的なので、この段階で確定診断できることもあります。
ただ、一般的には確定診断には病理組織検査が必要になることが多いです。悪性腫瘍が疑わしい場合、転移の有無の確認のために超音波検査やレントゲン検査が必要となります。
治療に関して腫瘍の代表的な治療方法は外科手術、化学療法、放射線療法があります。
腫瘍の種類によって治療方法は異なってきますので、どの治療が一番良いということはありません。
また動物の状態などによっては、これらの治療法以外をご提案させていただくことがあります。
リンパ腫とは白血球の1種であるリンパ球が腫瘍性に増殖する悪性腫瘍です。
犬の腫瘍中では発生率が高く、犬の腫瘍全体の7~24%を占めています。
発生年齢は6ヶ月齢から15歳齢と幅広い範囲で認められますが、一般的には中~高齢(5~10歳齢)のころに発生します。性別差はありません。
発生リスクの高い犬種はボクサー、ゴールデンレトリーバー、バッセトハウンドなどが挙げられています。逆に発生リスクの低い犬種はダックスフンド(日本では例外)、ポメラニアンが挙げられています。
原因は、遺伝的な要因や発がん物質の摂取などが考えられています。リンパ腫は全身をめぐる血液の細胞である白血球ががん化するため、体のほぼすべての組織に発生する可能性があります。その発生する場所の違いにより症状や治療に対する反応、予後(治療後の経過)が異なる場合があるため、発生場所によりいくつかの型に分類されます。
リンパ腫全体の約80%に認められる最も多いタイプです。体表にあるリンパ節が腫大し、進行に従って肝臓、脾臓、骨髄などにも広がっていきます。
症状は進行度にもよりますが、無症状~軽度が多いとされています。しかし体重減少、食欲不振、元気消失、発熱など非特異的な症状が見られることもあります。
全体の約5%に認められるタイプです。胸骨リンパ節、胸腺、あるいはその両方の腫大を特徴とします。
腫瘤による圧迫や胸水貯留により呼吸困難が生じることがあります。腫瘍随伴症候群として、高カルシウム血症が認められることが多いです。
リンパ腫全体の5~7%に認められるタイプです。
腸管に病変が広がっていると吸収不良により下痢、嘔吐、体重減少、食欲不振、低タンパク血症などが生じます。
皮膚に発生する非常にまれなタイプです。孤立性のこともあれば全身に多発することもあります。
診断は、全身の視診と触診によりなされます。リンパ節の大きさ、硬さ、形、周囲組織との関連性などを調べます。またリンパ腫の進行度(臨床ステージ)、全身状態の把握のため、血液検査やレントゲン検査、超音波検査を行います。追加の検査としてリンパ球クローナリティー検査(遺伝子検査)なども行います。
以上の検査から異常を認めたリンパ節や臓器に対しては細胞診あるいは病理組織検査を行い、診断を確定する必要があります。
また、犬のリンパ腫は、細胞診、免疫染色や遺伝子診断を組み合わせることによりT、B分類と高分化型、低分化型のグレードをもとに大きく4つに区分されています。
この4分類はそれぞれ治療反応と予後予測が異なります。
多中心型リンパ腫ではWHOのステージ分類が進行度評価としてよく適応されます。
ステージ1 単一のリンパ節または単一臓器におけるリンパ系組織に限局
ステージ2 領域内の複数のリンパ節に浸潤(扁桃を含むまたは含まない)
ステージ3 全身性リンパ節浸潤を認める
ステージ4 肝臓または脾臓に浸潤(ステージ3を含むまたは含まない)
ステージ5 血液、骨髄、またはその他の部位への浸潤(ステージ1~4を含むまたは含まない)
サブステージ
サブステージa:全身症状を伴わない
サブステージb:全身症状を伴う
リンパ腫において無治療の場合、ほとんどの犬が4~6週間後に死亡するという報告もあります。
リンパ腫の治療で根治(完治)は難しく、緩和が目標となります。そのため治療をしながらできる限りQOL(生活の質)を維持していくことが目標になっています。
以下にリンパ腫の治療法で主なものを挙げ、その特徴について説明します。
リンパ腫は全身性疾患であるため、化学療法(抗がん剤)が主体となります。
抗がん剤といっても多種多様であり、そのときの動物の全身状態やリンパ腫の種類によっても変化します。
基本的には数種類の抗がん剤を組み合わせ、計画された間隔で薬剤を投与することが多いです。
リンパ腫は全身性疾患であるため、通常は外科療法の適応ではありません。
しかし、皮膚や眼球、腹腔内に孤立して病変をつくっている場合には、手術により大きなリンパ腫の病変を取り除きがん細胞の数を減らすことは治療上有効です。
特に消化管の場合は通過障害を引き起こすので、手術で取り除くことによりQOLの改善が見込めます。
しかし、リンパ腫は全身疾患なので、外科手術単独の治療で終わらず、補助療法として化学療法や放射線療法を併用し、全身に対する治療を施すことが必要になってきます。
リンパ球は放射線に対しての感受性が高いことから、腫瘍が限局している場合や、全身性ではあるが特定病巣によってQOL低下している場合には局所への照射も効果的と思われます。
もし治療が必要な時は二次診療施設へご紹介致します。
乳腺の腫瘍は、メスにとって最も一般的な腫瘍です。避妊手術を行っていない犬・猫で多く発生します。
早期の避妊手術は発生リスクを明らかに低下させます。犬で報告されている発生率は以下の通りです。
・初回発情前に避妊手術を行った場合 0.5%
・1回目と2回目の間に避妊手術を行った場合 8%
・2回目の発情後に避妊手術を行った場合 26%
・2.5歳以上で避妊手術を行った場合、予防効果なし
犬の乳腺腫瘍は、良性:悪性=1:1と言われており、約半分は良性とされています。
しかし猫の乳腺腫瘍は、約80~90%が悪性と言われておりほとんどが悪性とされています。
犬の悪性乳腺腫瘍の約4%程度の症例では、炎症性乳がんと呼ばれる極めて悪性度が高く、予後不良な病態をみとめることがあります。臨床徴候も特徴的で、複数の乳腺に発生し、ほとんどが皮膚のリンパ管浸潤を認め、硬固、熱感、浮腫、紅斑、疼痛を示します。
診断は、視診と触診によりされます。乳腺腫瘍は細胞診では良性腫瘍と悪性腫瘍を鑑別することはできません。確定診断には病理組織検査が必要となります。また乳腺腫瘍の最も一般的な転移部位は肺です。
そのため手術前に必ず胸部レントゲン検査を行い、肺転移が無いかの評価が必要になります。また血液検査や超音波検査も合わせて実施致します。
乳腺腫瘍は外科的切除が一般的です。犬の乳腺腫瘍における手術の方法は、腫瘍の位置や大きさなどにより決定されます。
つまり、部分的に切除する方法や、片側の乳腺を全て切除する方法などがあります。
一方、猫の乳腺腫瘍においては、腫瘍の大きさに関わらず、積極的な切除(両側乳腺切除)が奨められます。
なぜなら、局所侵襲性が高い事と、より積極的な切除により予後が改善するためです。化学療法の必要性は、腫瘍のタイプや病理組織学的検査所見により決定されます。
通常、ドキソルビシンやカルボプラチンが転移リスクの高い乳腺腫瘍や転移性腫瘍などに使用されています。
良性腫瘍は、外科的切除により完治します。
悪性乳腺腫瘍の場合、予後を決定する因子には、腫瘍のタイプ、大きさ、潰瘍形成、臨床ステージなどがあります。腫瘍の大きさは、乳腺腫瘍の犬にとって最も大切な予後因子の1つであり、腫瘍の直径が3cm以下の犬(中央生存期間22ヶ月)は、それ以上の犬(中央生存期間14ヶ月)に比べ明らかに予後が良好です。
炎症性乳がんは極めて予後不良であり、中央生存期間はわずか25日です。
一方、猫の乳腺腫瘍に関する予後因子としては、組織学的グレード、腫瘍の大きさ、リンパ管浸潤、手術方法であります。
直径2cm未満の腫瘍の摘出後の生存期間の中央値は3年間以上であり、3cm以上(4~6ヶ月間)、2~3cm(15~24ヶ月間)と比較して長期の生存期間が得られます。さらに両側乳腺切除を受けた猫の生存期間の中央値は917日間であるのに対して、片側乳腺切除術では348日間であるとされています。
以上のことから、腫瘍を早期に発見して両側乳腺切除や段階的な片側乳腺切除術によって、乳腺組織を全て切除することが猫の乳腺腫瘍治療では重要であります。