整形外科
整形外科
代表的なものに前十字靭帯断裂、股関節脱臼、骨折、膝蓋骨脱臼などがあります。
原因は外傷をはじめ、神経疾患、腫瘍性疾患、自己免疫疾患、内分泌疾患など多岐に渡ります。また、成長期に多い骨折や骨疾患、加齢に伴う靭帯損傷や関節炎など、それぞれのライフステージで起こりやすい整形外科疾患は異なります。背景となる疾患がないかに加え生活環境を知ることが原因の解明と治療には不可欠と考え、ご家族とのコミュニケーションも大事にしています。また、動物は痛みを言葉で伝えてくれないため、明らかに足をかばうようになったころには病状が進行していることもあります。少しでもお気づきの変化があればぜひご相談ください。
多くの場合は外科的な治療が必要となります。
体重の軽い小型犬では保存療法が選択されることもあります。
まず初めに飼い主様に詳しい症状のヒアリングを行います。
整形外科の治療を行うにあたり、飼い主様からの情報が非常に大切となりますので、少しでも気になる点がある場合には詳しく教えてください。
歩き方や触診に対する反応を見て、痛みや違和感がある部位を特定します。
病院では緊張してしまい、痛みを隠す子もいるので、異常に気がついた時は
携帯電話やスマートフォンで動画を撮影して頂くと、診断の助けになります。
症状に応じてレントゲン検査、血液検査、エコー検査などを提案させていただき、相談の後検査を実施します。
検査結果を基に病気を診断し、治療、処置を提案させていただきます。
手術適応の症例については、手術もご提案させていただきます。
十字靭帯は大腿骨と脛骨(すねの骨)をつなぐ靭帯で2本あります。この2本を前十字靭帯、後十字靭帯と呼び膝を安定化させる靭帯です。
前十字靭帯は膝関節を曲げ伸ばしするときに、
という働きをしています。
犬は前十字靭帯の損傷をすることが多く、切れることで膝の安定性が失われ、痛みや違和感により歩行異常がみられます。
また、大腿骨と脛骨の間には半月板があり、膝が動くときに衝撃を吸収してくれる役割をしています。
以下の犬種は発症リスクが高いとされています。
ラブラドール・レトリーバー、柴犬、ゴールデン・レトリーバー、ウェルシュ・コーギー、フラットコーテッド・レトリーバー、キャバリア・キングチャールズ・スパニエル、ロット・ワイラー、ヨークシャー・テリア、ニューファンドランド、秋田犬
一般的には中年齢で発症しやすい病気ですが、大型犬種は若齢(2歳以下)でも生じることがあります。
膝が過剰に伸びたり、ねじれたりする事によって靭帯に異常な力がかかった場合
特に多いのが急なジャンプやターンなどです。
加齢などにより靭帯そのものの強度が低下してしまった場合、明らかな外傷歴もなく突発的に発症することが多いため注意が必要です。
加齢以外にも、ホルモン異常や免疫異常、他の関節疾患(例:膝蓋骨脱臼)などに関連して発症していることがありますので全身的なチェックが必要です。
前十字靱帯が切れた直後は強い痛みがあり、患肢を挙げたままになります。触ろうとするだけで怒ることもあります。
小型犬では数日すると痛みが軽減し、通常時は足を着けるようになることもありますが、運動時にはまたびっこや挙げたままの状態になってしまうことが多いです。
肥満や大型犬の子では症状はより顕著になります。
切れたまま時間が経つと関節炎などで関節が腫れることも少なくありません。
前十字靭帯断裂を放置していると膝関節に負担がかかり続け、骨同士のクッションをする半月板が損傷を起こしたり、関節炎を引き起こしたりして、より重度の障害につながります。また逆足への負担が大きくなるため、逆足も前十字靭帯断裂を起こしてしまうこともあります。
年齢、経過などの状態や身体検査により診断を行います。
特殊な整形学的検査としては、脛骨前方引き出し徴候・脛骨圧迫試験といった膝関節の前方への不安定を検査する方法があります。
ただし、慢性症例では膝関節周囲が固まってしまい前方への不安定が不明瞭な場合がありますので、診断には詳細な身体検査が必要となります。
また、診断や他の疾患との鑑別にはレントゲン検査が重要となります。
超小型犬を除き、前十字靭帯の治療には外科手術が必要で、手術により膝を安定化させます。正常な膝の機能を取り戻すことで将来的な関節炎を防ぎます。
現在最も良好な治療成績が報告されている手術法はTPLOと呼ばれる方法ですが、難易度の高い特殊な手術のため実施できる病院が限定され費用も高額になります。当院では関節外法(Flo法)を実施しており、TPLOに比べて安価で手術時間も短く、特に小型犬では比較的良好な治療成績が得られます。もちろんTPLOをご希望の方には実施できる施設をご紹介しています。
手術後は良好な回復のために、筋肉をしっかりとつける、関節の動く範囲を改善させることを目的としてリハビリを行う必要があります。
現在、どの手術方法を用いても変性性関節炎の進行を完全に抑えることはできないといわれています。また、反対側の肢に同じように発症することも少なくありません。そのため症状が改善しても経過観察や関節に負担をかけないような生活が大切です。
膝蓋骨が大腿骨遠位の滑車溝から内方または外方に転位する状態です。
膝蓋骨は溝の上で滑車の役割をしており、膝を伸ばすときに筋肉の力を有効に伝えるという働きをしています。そのため、膝蓋骨脱臼では脱臼の痛みだけでなく、膝関節がしっかりと使えないなどの機能的な問題も起きてしまいます。
特に小型犬には多く認められます(10kg以下で約45%)が、中大型犬でも認められます。
以下の犬種は発症が多く認められます。
小型犬:トイ・プードル、チワワ、ポメラニアン、ヨークシャー・テリア
中・大型犬:柴犬、フラットコーテッド・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバー
大腿骨の形成異常や関節の異常などにより、膝蓋骨脱臼が生まれつき、もしくは生後早期に生じます。早期の脱臼により骨の形成異常が生じた場合には非常に重度となります。
外傷性ともいわれ、膝に異常な力がかかることによって脱臼を生じます。
急性の脱臼では痛みを示し、肢を挙げるような歩行異常が見られることがあります。
慢性の脱臼では、脱臼の重症度や骨変形の程度によって異なり、スキップのような一時的な歩行異常や、持続的な歩行異常、肢を完全に挙げるような歩行異常など様々です。
一般的に脱臼の重症度は以下の4段階に分類されます。
膝蓋骨脱臼のグレード | |
---|---|
正常 | 膝蓋骨は脱臼しない |
グレード1 | 通常で膝蓋骨は正常な位置に収まっている。検査者の手で膝蓋骨を押すと脱臼し、手を離すと自然に元の位置に戻る。 |
グレード2 | 通常で膝蓋骨は正常な位置に収まっている。検査者の手で膝蓋骨を押しながら足先を回転すると脱臼し、手を離し足先を逆回転すると元に戻る。 |
グレード3 | 通常で膝蓋骨は脱臼している。検査者の手で膝蓋骨を元の位置に押せば戻るが、手を離すと脱臼してしまう。 |
グレード4 | 通常で膝蓋骨は脱臼している。検査者の手で膝蓋骨を押しても元の位置に戻らない。 |
治療せず放置しておくと、度重なる負荷によって、膝関節の骨格が変形し、重度の変形につながった場合には、膝関節では上手に体重が支えられず、他の関節にも余計な負担が生じてしまい、痛めてしまうリスクがあります。
また、簡単に脱臼と整復を繰り返してしまう膝関節では、歩く度に膝蓋骨と大腿骨がこすれ合い、関節表面の軟骨組織が削られます(軟骨びらん)。進行性の軟骨びらんは強い痛みが生じ、明らかな跛行を生じるようになります。
さらに無治療の膝蓋骨脱臼のある犬で長期間経過すると、膝の靭帯断裂(前十字靭帯断裂)が併発しやすくなるといわれています。(膝蓋骨内方脱臼を罹患している中高齢犬の15〜20%で発症)
身体検査により膝蓋骨の脱臼を確認します。他の疾患との鑑別や骨変形の程度、関節炎などの検査ためにレントゲン検査も重要です。
年齢、脱臼の程度、症状や進行具合など様々なことを考慮して治療方針を決める必要がありますのでご相談ください。
痛み止めやサプリメント、運動制限、減量などにより痛みの緩和を目的に行います。根本的な構造の異常に手を加えるのではなく、疾患と付き合いながら、どのような生活の質を保っていくかということに焦点をあわせます。
比較的軽度な脱臼の子が対象となり、通常の歩行が難しいほど重度な症状では内科療法は困難なことが多いです。
一般的には、膝蓋骨がしっかりと滑車溝に収まるように溝を形成し、大腿部の筋肉と膝関節の動きが真っ直ぐになるように再建することで脱臼の整復を行います。これにより膝関節を正常な状態に近づけ、機能的に回復させることが目的です。
手術後は、よりよい回復のために状態に合わせたリハビリを行う必要があります。
術後3ヶ月ほどで膝関節は安定化し、運動することができるようになります。
また、反対側にも膝蓋骨脱臼を持っていることが多く、こちらの経過も注意する必要があります。
現在、いずれの治療方法でも変性性関節炎の進行を完全に抑えることはできないといわれています。そのため症状が改善しても経過観察、関節に負担をかけないような生活が大切です。